妊娠中に気をつけたい感染症シリーズ⑩:尖圭(せんけい)コンジローマ 院長コラム#039
2025.02.11 院長コラム
院長の吉冨です。今回は妊娠中に気をつけたい感染症シリーズ第10回目、尖圭(せんけい)コンジローマについてです。尖圭コンジローマは比較的ポピュラーな疾患で比較的良く遭遇する疾患です。
尖圭コンジローマとは
ヒトパピローマウイルス(HPV)が、皮膚や粘膜に感染してイボのようなものができ、そのイボを尖圭コンジローマと呼びます。HPVというと子宮頸がんの原因ウィルスと思われる方もいるかもしれませんが、尖圭コンジローマを引き起こすHPVは子宮頸がんの原因となるHPVとは型が違います。感染してから症状が出るまでの潜伏期間はおよそ3週間〜9ヶ月程度になります。
症状としては陰唇や腟内、会陰、肛門周囲などに鶏のトサカのようなイボやカリフラワーのようなイボが複数発生します。自覚症状がないことがほとんどですが、かゆみや違和感を感じる場合や出血を起こすこともあります。自然に治ることもありますが、放置してしまうと徐々に大きくなったり、広範囲に広がることがあります。
治療方法としては塗り薬を使用したり、冷凍凝固を行ったり、レーザーや電気メスで焼灼したり、外科的手術によって切除したりします。これらの治療を行っても必ずしも完治するわけではなく、再発することもあります。
治療は婦人科や泌尿器科、性感染症内科、皮膚科などで行います。
妊娠中の尖圭コンジローマ
妊娠中は免疫の低下や体調の変化などにより、尖圭コンジローマを発症したり、増悪することがあります。
妊娠中の尖圭コンジローマで問題となることは、分娩の際に赤ちゃんに産道感染する可能性があるということです。赤ちゃんに感染すると、喉の奥にできもの(若年性再発性呼吸乳頭腫症)ができることがあり、良性のできものではありますが、場所や大きさによっては気道が狭くなり、呼吸障害を来すことがあります。
以前は産道周囲に尖圭コンジローマが認められた際には、分娩方法として帝王切開が勧められていました。しかし、様々な報告から、最近では帝王切開の絶対的適応ではなく、状況に応じて対応するように変わってきています。その理由として、帝王切開でも赤ちゃんへの感染を完全には防ぐことができないこと、経腟分娩を行っても若年性再発性呼吸乳頭腫症の発生頻度は1%以下と多くはないことがあげられます。
また、妊娠中に尖圭コンジローマが認められなかった場合でも赤ちゃんにごく稀に若年性再発性呼吸乳頭腫症が発生しているという報告があります。以上のことから、私見ではありますが、妊娠中に尖圭コンジローマが認められたとしても、若年性再発性呼吸乳頭腫症の発生頻度はそれほど高いわけではないため、分娩の際に病変が少なかったり、腟内に病変がない場合は経腟分娩でもよいのでないかと考えています。そのため、妊娠中に尖圭コンジローマを発見した場合には、できるだけ分娩前までに治療を行い、病変部位を減らしておくことが良いかもしれません。
妊娠中は塗り薬での治療よりも外科的な治療の方が赤ちゃんへの影響を考慮した場合に適切だと考えられています。
以上、簡単に産婦人科医からの視点で尖圭コンジローマについて解説してみました。
尖圭コンジローマに関して、ご心配やご質問などがある場合は医師にお尋ねください。