妊娠中に気をつけたい感染症シリーズ⑧:RSウィルス 院長コラム#036
2024.05.23 院長コラム
院長の吉冨です。今回は妊娠中に気をつけたい感染症シリーズ第8回目、RSウィルスについてです。最新のトピックス情報をふまえて解説しようと思います。
RSウィルスとは
RSウィルス感染症を引き起こすウィルスです。2歳になるまでにほぼすべての乳幼児が感染するとされています。主な症状は感冒症状(発熱・咳・鼻水など)で、数日から1週間ほどで自然に治ることがほとんどです。しかし、初めての感染や6ヶ月未満の乳児が感染した場合は重症化することもあり注意が必要です。日本では毎年約12万〜14万人の2歳未満の乳幼児がRSウィルス感染症と診断され、その約4分の1が入院を必要とすると推定されています。
子どもの感染症として有名ではありますが、大人も感染します。大人が感染しても咳や鼻水が少し出る程度の軽い症状で終わることが多いので、感染に気付かないまま治ってしまうこともしばしばです。
RSウィルス感染に対する治療薬は今のところなく、対症療法が主な治療となります。
RSウィルスの感染経路
ウィルスが付着したものを手で触り、その手で目や鼻、口に触ることで感染する接触感染と、感染した人の咳やくしゃみなどウィルスが含まれた飛沫を吸い込むことで感染する飛沫感染があります。RSウィルスは感染力が強いため、子どもが罹患した際には家族内で感染が広がりやすいので注意が必要です。感染拡大の予防策としては手洗いやアルコール消毒、マスクの着用などが有効です。
シナジス®とは
RSウィルス感染症の重症化を防ぐ目的で開発されたのがパリミズマブ(シナジス®)です。シナジス®は通常の予防接種で行うワクチンではなく、RSウィルスに効果がある抗体成分を精製したもので効果は約1ヶ月です。流行期の間、毎月投与する必要があります。予防接種との間隔を考慮する必要はなく、同時接種も可能なため予防接種のスケジュールを変更する必要はありません。
初回投与時点で下記の基準を満たしていれば1シーズンの接種を保険適応で行う事ができます。
①早産児
・在胎期間28 週以下(28週6日まで)で出生してた方で接種開始日時点で12 ヶ月齢以下
・在胎期間29 週~35 週(35週6日まで)で出生した方で接種開始日時点で6ヶ月齢以下
②血行動態に異常のある先天性心疾患があり接種開始日時点で24ヶ月齢以下
③免疫不全があり接種開始日時点で24ヶ月齢以下
④ダウン症候群があり接種開始日時点で24ヶ月齢以下
⑤肺低形成があり接種開始日時点で24ヶ月齢以下
⑥気道狭窄があり接種開始日時点で24ヶ月齢以下
⑦先天性食道閉鎖があり接種開始日時点で24ヶ月齢以下
⑧先天代謝異常症があり接種開始日時点で24ヶ月齢以下
⑨神経筋疾患があり接種開始日時点で24ヶ月齢以下
残念なことに、上記適応条件を満たさない場合は保険適応でのシナジス®の投与は行えないため、一般的に多くの赤ちゃんがシナジス®の投与を行うことはないかと思います。
妊婦さんが接種する赤ちゃん用のRSウィルスワクチンが使えるようになった!
ここからが今回のコラムの「キモ」となる最新情報となります。
前述の通り、RSウィルスは2歳になるまでにほぼすべての乳幼児が感染し、場合によっては重症化して入院管理を余儀なくされる場合があります。しかし、RSウィルス感染症に対する特効薬はなく、シナジス®の適応も限られており、お子さんがRSウィルスに感染して大変な思いをされた親御さんは多かったのではないでしょうか。そんな中、ついに妊婦さんが接種する赤ちゃん用のRSウィルスワクチン(アブリスボ®︎)が使用できるようになります!2024年5月31日から発売開始予定であり、当院でも6月1日より接種できるように準備を行っているところです。
このワクチンのユニークな点は、妊婦さんが接種することでお腹の中の赤ちゃんに効くワクチンということです。赤ちゃんがRSウィルスに対する免疫をもった状態で生まれてくることができ、重症化することを減らすことができます。
妊婦さんが接種する赤ちゃん用のRSウィルスワクチン(アブリスボ®︎)についての情報
・効果:妊婦さんへの接種で生後90日以内の乳児の入院率が80%減少、発症予防効果も50%ほど期待できる
・安全性:観察期間中の母親と月齢24ヶ月までの乳幼児に安全性の懸念はなかった
・副作用:主な副作用は注射部位の痛みが40%、疲労が46%程度あり、その他、頭痛や筋肉痛などの副作用の報告がありますが、大部分が2、3日で消失している
・接種方法:肩に筋肉注射
・接種回数:1回
・接種時期:妊娠24週~36週(妊娠24週から接種可能ですが、より予防効果が高いのは28週からとされています。)
妊婦さんが接種する赤ちゃん用のRSウィルスワクチン(アブリスボ®︎)の利点のまとめ
・妊婦さんが接種することでお腹の中の赤ちゃんに効くワクチンであり、赤ちゃんがRSウィルスに対する免疫をもった状態で生まれてくることができる。
・接種回数が1回で良い(生まれてから赤ちゃんにシナジス®の投与をする場合、何度も赤ちゃんに注射が必要となってしまう)。
・生後90日以内の乳児の入院率が減少し、生後1年まで有効性が示されている。
以上、最新のトピックス情報をふまえて簡単に産婦人科医からの視点でRSウィルスについて解説してみました。
RSウィルスワクチン(アブリスボ®︎)の接種をご希望の方は妊婦健診の際、受付時にご相談ください(当院におかかりの患者様のみお受け付けいたしております)。
RSウィルスワクチン(アブリスボ®︎)の料金につきましては当院ホームページにあります料金案内をご参照ください。
RSウィルスワクチン(アブリスボ®︎)に関して、ご心配やご質問などがある場合はかかりつけの医師にお尋ねください。