妊娠初期の出血・腹痛について ~流産・切迫流産のことをよく知ろう!~ 院長コラム#031
2023.07.18 院長コラム
院長の吉冨です。妊娠したばかりの妊婦さんにとってもっとも心配なことの一つに流産があります。流産は妊娠全体の約15%の確率で起こり、その多くが妊娠3ヶ月(妊娠12週)までに起こります。
今回は問い合わせの多い「妊娠初期の出血・腹痛」について詳しく解説していきたいと思います。医学的な根拠に基づき、私見を含めて記載していますので、まだまだ一般的でないものから、現在行われている標準的な管理とは異なる部分もあります。しかし、慣用的に行われている根拠のない治療や不要な心配事を減らす意味で今回このテーマについて深く掘り下げてみました。一部、院長コラム#030と重複する部分がありますのでそちらも参考にされてください。
①流産とは
流産とは妊娠22週(赤ちゃんがお母さんのお腹の外では生きていけない週数)より前に妊娠が終わってしまうことをいいます。妊娠12週までの流産を早期流産といい、妊娠12週以降22週未満の流産を後期流産といいますが、約8割の流産は早期流産です。
流産の確率は妊娠全体の約15%といわれています。この数字はとても高いと感じます。毎日外来診療をしていれば、1日数名の流産と出くわす計算になるからです。流産はそれほど頻度が高いのです。妊娠週数別から見てみると、流産全体のうち妊娠5~7週では22~44%、8~12週で34~48%、13~16週では6~9%と言われています。また、妊婦さんの年齢から見てみると、35~39歳では20%、40歳以上では40%以上と、年齢が高くなるにつれ、流産の可能性が高くなります。
②流産の種類と名称
流産にはその過程や状況に応じた名称があります。その一部を以下に簡単に説明します。
切迫流産
妊娠22週未満で流産へ進行する可能性があると判断される症状(出血、腹痛など)を認めた場合に切迫流産と診断します。切迫流産は実際には流産に至ってはおらず、多くの場合は問題なく経過します。また、症状は徐々に改善し、妊娠12週以降には症状が消失することが多いです。
稽留(けいりゅう)流産
赤ちゃんが亡くなっているにもかかわらず子宮内に留まっており、出血や腹痛などの症状がない状態。自覚症状がないため、診察して初めて知らされます。治療法としては入院の上、流産手術を行うことが多いのですが、外来で経過を見ながら自然に排出されるのを待つ場合もあります。
不全流産
流産の際に赤ちゃんや胎盤などが完全に排出されず、一部が子宮の中に残ってしまった状態をいいます。出血などが続くため、子宮内容除去手術を行い、残ったものを取り除くことがあります。
完全流産
赤ちゃんや胎盤などが完全に排出された状態をいいます。腹痛を伴う比較的多い出血があった後に徐々に症状は落ち着いてきます。通常、特別な処置は必要としません。
進行流産
赤ちゃんや胎盤などが排出されてはいませんが、流産が始まり、出血や腹痛を伴います。結果的に完全流産か不全流産となります。
習慣流産
連続3回以上の自然流産を繰り返した場合に言います。前述のとおり誰でも流産を引き起こす確率は高いのですが、連続3回以上繰り返す場合は両親に何らかの原因がある場合があります。精査を行うことは可能ですが、原因がはっきりしないことも多いのが特徴です(院長コラム#030に詳しく説明しています)。
③流産の原因
早期流産の原因で最も多いのが赤ちゃん自身の染色体の異常です。つまり、妊娠した時点でその妊娠は流産をしてしまうという運命が決まっているということになります。ですので、妊婦さんの仕事や運動などが原因で流産することはほとんどないと言って良いと思います。また、加齢とともに流産の確率が高まる理由も同様で、妊婦さんの年齢が高くなってくると染色体異常の確率が上がるからです。
④切迫流産の治療
結論から言いますと、切迫流産に対する確立された効果的な治療法はありません(特に早期流産)。なぜなら、前述したように本当に流産になってしまうものの多くは赤ちゃんの染色体異常が原因であり、それを治療できないからです。
さらに言いますと、そうでない場合はたとえ症状があっても無事に妊娠が継続されることがほとんどであり、治療をすることそのものにはあまり意味がないように思います。つまり、特に早期流産の時期は経過観察で対処するしかないのです。
しかし、心配が強すぎたり、そういった説明内容にご納得がいただけない場合には、慣習的な治療を行うことがあります。まず、よく行う治療法としては安静です。安静療法は子宮の中に血液のたまりがあるような切迫流産に限り、安静療法が効果的かもしれないとする研究報告がありますが、エビデンスレベルは低いです。
私個人の意見としては、安静療法とはどこまで安静にすべきなのかあいまいであることと、自宅安静療法は本当の意味で安静を保てないのではないかと思っており、全ての切迫流産の方に効果のある方法とは考えておりません。
むしろ、過度の安静は妊婦さんやその家族の生活の質を落としたり、妊婦さんが命の危険に及ぶ可能性のある深部静脈血栓症を引き起こすリスクが増え、場合によっては害があるとさえ考えます。
また、薬物治療も存在します。切迫流産に対して保険適応のある薬剤としてはダクチルⓇやプロゲステロン製剤、ヒト絨毛ゴナドトロピン製剤などがあります。保険適応はないものの止血効果を期待してトランサミンⓇやアドナⓇを使用する場合もあります。これらの薬剤は積極的に処方している施設も多数存在しますが、全ての薬剤で一般的な切迫流産に対しての流産予防効果があるという十分な科学的根拠は示されていないのが実状です。
⑤症状(出血や腹痛)を認めた場合の対処法
妊娠初期は少量の出血や軽い腹痛を感じることが多くあります。正常の妊娠経過中にもこれらの症状はよく見られますが、結果的に流産を引き起こす時の症状も同じであり、症状だけでは全く区別がつきません。
しかし、前述のように流産や切迫流産で、少量の出血などが始まってすぐに医療機関を受診したとしても有効な対処法がないため、夜間、休日等に少量の出血や軽度の腹痛があっても、緊急で医療機関を受診する必要はなく、診療時間内あるいは予定された健診の受診で十分です。ただし、胎嚢がまだ確認されておらず、腹痛が強い場合には異所性妊娠(以前は子宮外妊娠と言っていました)の可能性がありますので、そのような場合には時間外であっても医療機関に連絡をしてください。
また、胎嚢が確認されている場合、一時的に出血が増えたり、腹痛が強くなってもその後落ち着いてきた場合には完全流産となった可能性があり、この場合にも特別な処置は必要としないため、診療時間内での受診をお願いします(例外として内外同時妊娠がありますが、頻度は少なく、自然経過では症状は改善しません)。
⑥流産後に自分を責めない
何度も申し上げておりますが、流産の原因は赤ちゃんの染色体異常であることが多く、妊娠した時点で決まっていることがほとんどです。妊婦さんの生活上の一般的な行動や運動などはほとんど関係ありません。
しかし、流産を経験した方の多くは、自分のせいだと落ち込んでしまったり、もう妊娠できないのではないかと不安になったりします。全ての女性がある一定の確率で流産は経験するものですから、あまり自分を責めすぎないようにしてください。
⑦まとめ
流産の確率は約15%と高率で、決して珍しいものではありません。流産後はとても悲しい気持ちになりますが、自分を責め過ぎないことが大切です。流産を経験してもその後に赤ちゃんを授かる方はたくさんいます。
また、切迫流産の症状があってもあわてないようにしてください。不安な気持ちはよくわかりますが、有効な対処法がないため、時間をかけて経過を見ていくしかありません。正しい知識をもって、不要な心配が減ることを切に願います。また、節度を持った行動をお願いします。