マタ旅(マタニティー旅行)について 院長コラム#029
2023.04.17 院長コラム
院長の吉冨です。今回は妊婦さんが旅行すること、つまりマタニティー旅行、略してマタ旅について書こうと思います。
この先、大型連休を控えており、新型コロナウィルスに関する規制も緩和してきているため、マタ旅を検討していらっしゃる方もいるのではないでしょうか?
マタ旅とは
マタ旅とは妊娠中に旅行や遠出、催し物に出かけることを指します。皆さん、マタ旅についてどう考えているでしょうか?我々は日常診療の場において、「旅行は行っても大丈夫ですか?」という質問をよく受けますが、答えは「ノー!」です。
何が問題?
では、マタ旅の何が問題なのでしょうか。
まず皆さんに知っておいてもらいたいことは、妊娠中はいつ何が起きるかわからないということです。たとえ妊婦健診で順調であると言われていても、その後に早産に至ったり、死産となってしまうことは十分あり得ることです。
旅行先でこけたり、交通事故に遭遇したり、出血したり、お腹が痛くなったり、破水したり、何らかのトラブルが起きた時に、それまでの経過を知っている医療機関にかかるか、その場しのぎで救急病院にかかるかはだいぶ状況が異なります。旅行先で早産になった場合は赤ちゃんはもちろんのこと、お母さんも赤ちゃんの治療が終わるまで何ヶ月も帰ってこられない可能性もあります。
また、国内であれば言葉が通じ、それほど医療水準に大きな差はないかもしれませんが、海外であった場合はその国の医療水準によって受けられる医療の質は変わってくるでしょうし、言葉の問題や医療費の問題もあります。医療費だけで数千万円も請求されたという話も聞いたことがあります。
さらに、現地の産科医療の負担になるという問題も生じます。例えば、私は大分の総合周産期センターで勤務していたことがあるのですが、その時のマタ旅関連の急患が多いことに驚きました。地域の妊婦さんを診るだけでも精一杯なのに、その上、マタ旅の急患に24時間対応しなければならないのはかなり大変です。
また、順天堂浦安病院が世界一稼ぐネズミが出没する夢の国に遊びに来て担ぎ込まれる妊婦が多いことを学会発表したことがあります。マタ旅は旅行が台無しになるだけでなく、母児ともに危険にさらされる可能性があり、さらに地域の産科医療をも圧迫します。
知人の結婚式も同様で、もし式中にトラブルが発生した場合、結婚式は台無しとなり、幸せを祝うムードから一変し、いろんな意味で取り返しのつかないことになります。
他人の美談に惑わされないで
近年、急速に広がってきているマタ旅。その原因として有名人がおしゃれな行為として体験談を公表し、それをメディアが好意的に取り上げ、一般の人が真似をするという流れではないかと思うとともに、最近では「インスタ映え」「マタニティービキニは定番」といった誤った認識が広がっていることも一因と考えます。
他人の美談に惑わされることなく、安全を最優先したマタニティーライフこそ、充実していると思います。
どうしてもマタ旅したい場合
前述したようにマタ旅は危険でかつ迷惑のかかる可能性のある行為です。どの時期のマタ旅も勧めません。どうしても旅行に行きたい場合、もし行くとすれば妊娠16~20週だと私は考えます。
妊娠16週未満はつわりや出血などのトラブルが多く、妊娠20週以上であればトラブルの際の事の重大さが大きいためです。また、母子手帳は必携です。さらに、海外旅行は絶対に勧めません。
マタ旅ではなく、ママ旅を
マタ旅が流行る背景には、子供が生まれたら育児で旅行に行く余裕がなくなるとか、子連れでの旅行(ママ旅)だと楽しめないということがあるのだと思います。旅行先や移動中に小さな子供が泣いたり騒いだりすると申し訳ない気持ちになってしまったり、お酒を飲んで発散させたくても周りの目が気になったり、迷子にならないか子供のことを常に気にする必要が出てきたりと、大変なイメージばかりが先行してしまうからだと思います。
育児はつらい義務ではなく、楽しい・幸せな権利です。夫婦水入らずの旅行は妊娠前に終わらせて、妊娠発覚後はお腹の中にもう一人の家族がすでにいるのだと自覚し、生まれてきてから一緒に楽しい思い出を作るのだと考えれば、充実した楽しいママ旅ができると私は思います。