安全で質の高い硬膜外無痛分娩について思うこと 院長コラム#016
2022.01.24 院長コラム
院長の吉冨です。
ブログ第3弾で無痛分娩について少し思うところを書いてみましたが、今回は無痛分娩の安全性と質について私の考えを書いてみようと思います。
前回も書きましたが、お産は100%安全なものではないという前提が存在します。
お産中に私たち医師の診察や処置を受けなくて済むのであれば、それはとても順調で喜ばしいことであると思います。
しかし、多くの場合は何かしらの処置を受けることがあり、それはうまくいきそうにないお産をできるだけ安全に導くためのものであったり、うまくいかなかった場合の対処であったりします。
硬膜外無痛分娩は痛みが自然分娩と比べると格段に軽減される反面、多くの診察や処置を必要とします。
また、安全に遂行するためには観察と積極的な分娩管理を必要とし、安全かつ質の高い無痛分娩を提供するためには、人員・教育・知識・スキル・工夫・準備・経験・振り返り・予防が必要です。
まず人員・教育について、多くの助産師さんが携わったり、いろんな医師が対応する方が安全と思ってらっしゃる方も多いかもしれません。
個人的にそれは間違っているのではないかと考えています。なぜなら、情報の共有は人が多いほど不十分となりやすく、対応の仕方はそれぞれが完全に一致させられないからであり、責任の所在も曖昧になるからです。
とはいえ、硬膜外無痛分娩は処置や観察項目が自然分娩と比べると格段に多く、教育された人員の確保は必要です。
また、硬膜外無痛分娩はきちんとした教育を受ける場が日本にはとても少なく、多くの場合ほとんどまともな教育を受けたことがない状況で行っていることがほとんどではないかと思います。
そのため、しっかりと教育を受けた医療従事者が院内教育を施すことはとても重要なことと考えています。
また、妊婦さんへの教育も重要です。私たちと認識の差があったり、安全に分娩を進める上での知識が全くなければうまくいきませんし、満足度も向上しません。
そのため、土曜日の午後の外来診療を閉じてまで当院では院長クラスを実施し、患者教育に力を入れています。
次に知識・スキルについて、これは言わずもがな、知識やスキルが無いのに硬膜外無痛分娩を行うことは事故につながるだけでなく、質の担保もできません。
よくある危険な体制として、硬膜外カテーテルの留置のみ麻酔科に依頼し、その後は麻酔科が院内に不在というパターンはとても良くないことであると思います。
硬膜外カテーテルを留置することはとても繊細な作業であり、難しいことではありますが、その処置そのものは硬膜外無痛分娩の初期処置であり、本当に知識やスキルを必要とする場面は無痛分娩を開始するときや維持するとき、そして何かトラブルが起きたときです。
そのため、硬膜外カテーテル留置後に知識やスキルのない医師しかいない場合は危険性が大きく増し、満足のいく鎮痛も得られないことになりかねません。
次に工夫・準備について、私たちは常に生身の人間を扱っており、十人十色の対応を迫られます。
人によって痛みの感じ方が違ったり、分娩の進み具合が違ったりします。必要な処置や薬の量もまちまちです。その人に合った方法ややり方を臨機応変に対応する必要があります。
そんな中で安全性を保ちながら、質を追求することはとても困難であり、多くの工夫が必要となります。
詳細は院長クラスでお伝えしていますが、硬膜外無痛分娩を行っている妊婦さんに対し、「同じ方法、同じ薬、同じ投与量、同じ管理方法」ではうまくいく人もいればうまくいかない人も出てきます。
また、トラブル時に迅速な対処も行いにくくなります。そのため、プロトコルを作成し、様々な工夫を講じています。
また、安全にものごとを進めるには準備は欠かせません。いつでも硬膜外無痛分娩を行えるよう常に準備態勢を敷いています。
次に経験・振り返りについて、硬膜外無痛分娩のみならず、お産そのものは経験も重要な要素となってきます。
特にトラブル時の対応などは経験がものごとを左右することもあります。
しかし、医療は日進月歩であり、常にアップデートされていっています。
それは、現行のやり方ではうまく行かないことや有害事象の発生をより減らすために日々改善されていっているのだと思います。
そのため、経験のみに頼った診療行為では必ずと言って良いほど、それ以上に良い対処法が存在するのになと思うことが多々あります。
私たちも常にアップデートしていかなければなりません。その努力は並大抵なことではありませんが、日々の振り返りを通じて、また、学会参加やガイドライン・参考書の最新情報をいち早く取り入れることにより、より良い無痛分娩の提供ができればと思います。
特に、振り返りは重要で、職員の教育のみならず、安全性や質の担保には欠かせません。
最後に予防について、これについては当院で最も力を入れている部分のひとつです。
硬膜外無痛分娩は医療介入を行うことが多く、その結果、お産そのものに悪影響を及ぼしたり、命に関わるトラブルも発生する可能性があり得ます。
有害事象が起こったときにしかるべき対応をすることは当然であり、私は有害事象をできるだけ起こさないように予防に努めることがとても大切だと考えています。
ひとつの予防策ではそれをすり抜けたときに有害事象が発生してしまうため、いくつもの予防策を張り巡らすことで、有害事象を起こさないようにすることがとても重要です。
詳細に関してはこれも院長クラスでお話ししていますが、正しい知識をもって、皆さんにもその内容を理解してもらうことがとても大切です。
私たちの願いは母児共に安全にお産を終えることです。
それが担保されて初めて無痛分娩を行うことが出来、さらなる安全性の向上と質の向上を目指していきたいと常々思います。