妊娠中のビタミン剤やサプリメント 院長コラム#010

2021.07.26 院長コラム

院長の吉冨です。今回は妊娠中のビタミン剤やサプリメントについて書こうと思います。エビデンス(科学的根拠)の無い治療や不要な医療行為は好まない私ですが、ビタミン剤やサプリメントについては肯定的な意見をもっています。科学的根拠をふまえて私見を綴ります。

 

ビタミン剤、サプリメントとは

ビタミン剤とサプリメントがよく混同されますが、ビタミン剤は薬に分類され、サプリメントは食品に分類されます。薬は薬事法に基づく厚生労働省の認可を受けたものに限られますが、食品であるサプリメントは比較的簡単に手に入れることができます。薬というと治療というイメージが強いので、ここで紹介するビタミン類についてはサプリメントのような感覚で話を進めていこうと思います。

そもそもサプリメントとは普段の食事の中で足りない栄養素を補う役割があります。ですので、バランスのとれた食事を毎日とることができている人にビタミン剤やサプリメントは不要なのですが、それがなかなか難しいことなのです。特に妊娠中は不足しがちな栄養素があったり、適量を補うことによって妊娠中にメリットをもたらすものがあります。

 

妊娠中に服用すると良いと言われる栄養素

葉酸

葉酸は赤ちゃんの脳や神経の発達に欠かせない栄養素です。食品に含まれる葉酸は調理や体内で吸収される過程で失われやすいため、食事だけで必要量を摂取することは難しいとされています。そのため、妊娠中(できるだけ早い時期)はサプリメントで補うことが厚生労働省からも推奨されており、できれば妊娠1ヶ月前から摂取するよう推奨されています。妊娠中は食事のほかにサプリメントで1400μgを摂るのが望ましいです。ただし、上限は1000μg程度であり、医師の指示がない限り過量摂取は控えてください。

ビタミンB1

ビタミンB1は赤ちゃんの神経細胞形成に必要な栄養素です。極端に不足した場合には赤ちゃんの神経系に何らかの問題を引き起こす可能性はありますが、通常の生活をおくっている場合はまず問題ないかと思います。それよりもビタミンB1の不足は妊婦にとって深刻となることがあります。脚気やむくみ、食欲不振、便秘、神経炎などの症状が起こりやすくなるほか、つわりなどで絶食状態が続くと急性のビタミンB1欠乏症からウェルニッケ脳症を引き起こします。命に関わりますので、十分に摂取できない場合は点滴で補充する必要があります。

ビタミンB2

ビタミンB2は赤ちゃんも妊婦さんも皮膚や粘膜、髪、爪などの発育や維持に関わってます。ビタミンB2の不足は肌荒れや口内炎などのトラブルを起こしやすくなります。また、ビタミンB2には偏頭痛に効果があるとも言われており、頭痛でお悩みの方にはお勧めです。

ビタミンB6

ビタミンB6はつわりを軽減する効果があるとされ、妊娠前・妊娠初期に十分な量を摂取するとつわりが軽くなると言われています。また、妊娠高血圧の予防にも効果があると言われています。

ビタミンB12

ビタミンB12は葉酸とともに、血液中のヘモグロビンを作るのに必要な栄養素です。この2つは互いに補い合っている関係なので、どちらか一方の過剰摂取は好ましくありません。

ビタミンC

ビタミンCは免疫力を向上させたり、皮膚や骨、血管などを丈夫にするために必要な栄養素です。鉄分の吸収を助ける作用もあり、鉄分と一緒に摂ることをおすすめします。

鉄分は血液中のヘモグロビンの生成に欠かせません。妊娠中は鉄分が不足して鉄欠乏性貧血を起こしやすくなります。出産時の出血に備え、貧血は改善しておく必要があります。

カルシウム

カルシウムは赤ちゃんの骨や歯を作るために必要となります。カルシウムが不足すると妊婦さんの骨からカルシウムが溶け出して、妊娠中や産後に骨折しやすくなることがあります。また、妊娠高血圧を予防する効果があるとも言われています。

  

妊娠中は要注意!特に過剰摂取してはいけないビタミン類

ビタミンA

ビタミンAは皮膚や粘膜を丈夫にして、免疫力を向上させるのに必要な栄養素ですが、妊娠初期は過剰摂取によって赤ちゃんに問題が生じるリスクがあります。

ビタミンD

ビタミンDは骨や歯の形成、維持に欠かせない栄養素です。過剰に摂取すると食欲不振や嘔吐、下痢などの消化器症状がでたり、腎機能障害を起こすことがあります。また、赤ちゃんへの影響として歯の形成異常が起こることがあります。

ビタミンK

ビタミンKは不足すると血が止まりにくくなることがありますので、生まれたばかりのお子さんには人工的に補充してあげることが一般的です。また、カルシウムを骨に沈着させる作用をもつため、骨粗しょう症の改善にも使用されています。妊娠末期に大量摂取すると赤ちゃんに高ビリルビン血症(新生児黄疸)が現れる可能性が報告されています。

 

ビタミン剤やサプリメント服用上の注意点

それぞれの栄養素には1日の摂取量の上限が設けられています。過剰摂取は妊婦さんや赤ちゃんに悪影響をもたらすこともありますので、サプリメントを服用する際には用量を必ず守ってください。また、いろいろなサプリメントが出回っています。妊婦さん用のサプリメントであればおおよそ問題ないことが多いかと思いますが、服用される際には一言、医師にご相談ください。

 最後に、DHAサプリメントについての注意喚起ですが、この中にはEPAという成分が多く含まれています。EPAは血液をサラサラにして血液を固まりにくくする作用があります(このため心筋梗塞などの予防に良いと言われています)。出産直前や帝王切開直前に服用されていると出血が止まりにくくなることがありますので、妊娠3234週頃までには服用を中止してください。